MetaがLlamaを捨てた日――Muse SparkとSuperintelligence Labsが問い直すAI覇権
143億ドルを投じて外部から人材とデータを買い込み、9ヶ月間ほぼ沈黙を守ったMetaが、2026年4月8日にようやく動いた。
「Muse Spark」と名付けられた新モデルは、既存のLlamaシリーズの改良版ではない。Metaのモデルアーキテクチャ、最適化、データキュレーションを根本から作り直した、まったく別物のプロダクトだ。発表のインパクトは、スコアよりもその「出自」にある。

Zuckerbergが下した「LlamaリセットGO」
2025年6月、Mark ZuckerbergはScale AI(データラベリング最大手)の株式49%を143億ドルで取得し、同社CEO Alexandr WangをMetaの初代チーフAIオフィサーとして迎え入れた。報道ベースでは「買収」と呼ばれることもあるが、正確には非議決権株式の取得だ。にもかかわらず、Wangが初日からMetaのAI戦略を仕切り始めたことは広く知られている。
それ以降、ZuckerbergはOpenAI・Anthropic・Googleからも研究者を引き抜き、「Meta Superintelligence Labs(MSL)」を設立した。名称は大げさに聞こえるが、やっていることは地味で真剣だ。既存のコードベースを捨て、スタックを一から書き直す。9ヶ月かけて。
Llamaの進捗への不満がそこまでMetaを追い詰めたということでもある。オープンソースモデルのリリースを重ねながら、GPT-5.4やClaude Opus 4.6との差が縮まらない。この焦りは、Wangを招いた判断に素直に表れている。
Muse Sparkとは何か
コードネーム「Avocado」から正式名称Muse Sparkに変わったこのモデルは、音声・テキスト・画像を入力として受け付けるマルチモーダル設計だ。ただし出力はテキストのみで、画像生成には対応していない。
技術的に面白いのが「Contemplating mode」と呼ばれる機能で、複数のAIエージェントを並列で走らせて応答を生成する。GPT-o1やGemini 2.0 Thinkingの「じっくり考えるモード」と同じ方向性だが、並列エージェントというアーキテクチャの取り方は独特だ。実際に使い込んでみないと体感できないが、複雑な推論タスクでどこまで粘れるかは気になる。
価格設定は全フレーバー無料(レート制限あり)で、現在はMeta AIアプリとmeta.aiで提供中。数週間以内にWhatsApp・Instagram・Facebook・Messenger、そしてMeta Ray-Ban AIグラスへも展開される予定だ。また将来的にはオープンソースライセンスでの公開も予定されている。
ベンチマーク:強みと弱みが明確に分かれた
Artificial Analysis Intelligence Index v4.0の総合スコアでは、Muse Sparkは52点でGPT-5.4・Gemini 3.1 Pro(57点)、Claude Opus 4.6(53点)のいずれにも届かなかった。正直な出足ではある。ただし、この総合スコアで判断するのは早計だ。
| モデル | 総合スコア |
|---|---|
| GPT-5.4 | 57 |
| Gemini 3.1 Pro | 57 |
| Claude Opus 4.6 | 53 |
| Muse Spark | 52 |
医療・健康領域のベンチマーク(HealthBench Hard)では、Muse Sparkが42.8でGPT-5.4(40.1)を上回り、Gemini 3.1 Pro(20.6)を大きく引き離して首位に立った。Geminiとの差は2倍以上だ。この数字が偶然の産物でないとすれば、Scale AIのデータキュレーション能力が医療領域で効いていると考えるのが自然だろう。
図表理解(CharXiv Reasoning)では86.4で全モデル中最高、大学院レベルの科学的推論(GPQA Diamond)も89.5%と健闘している。一方、抽象推論(ARC AGI 2)は42.5で、Geminiの76.5やGPT-5.4の76.1に比べると差が大きい。汎用的な推論の地力という点では、まだ開きがある。
トークン効率は5,800万と、GPT-5.4の1.2億・Claude Opus 4.6の1.57億に比べて大幅に少ない。これは経済的な展開コスト削減を狙ったものとも読めるし、単純に「消費者向け・軽量重視」という設計思想が反映された結果とも言える。
InstagramからAIグラスまで
展開プランが示す戦略は、スコアよりも明確だ。WhatsApp・Instagram・Facebookのユーザー数は合計で数十億人規模。Claude OpusやGPT-5.4が想定している「有料ユーザー」とは人口母数がまるで違う。
MetaにとってMuse Sparkは、それ自体がプロダクトであると同時に、ソーシャルプラットフォームの粘着性を高めるエンジンでもある。AIグラス(Ray-Ban Meta)との統合は、その延長にある。スマートフォンを取り出さずに会話できる体験は、今のLLM競争とはやや別の文脈だ。
クローズドからオープンへ、そして再びクローズドへ
MetaはLlamaシリーズで「オープンソースAI」の代名詞的存在になった。Muse Sparkも「将来的にオープンソースで公開予定」とアナウンスされているが、現時点でクローズドな状態で投入されている点は無視できない。
これをどう読むか。フロンティアモデルの競争が激化する中で、Metaは一旦「最高のものを作る」ことにフォーカスし、公開は後回しにするフェーズに入ったと見るべきだろう。Llamaがコモディティ化しつつある今、差異化のためにはクローズドのタイミングが必要だという判断だ。OSSコミュニティへのコミットメントが本物かどうかは、リリースのタイムラインが出てきてから判断すればいい。
それよりも気になるのは、Scale AIとのシナジーが今後どこまで伸びるかだ。データラベリングとモデル開発の垂直統合は、他社には簡単に真似できない。HealthBench Hardでの圧倒的なリードは、その可能性の一端を見せている。Muse Sparkが「バージョン1」だとしたら、次が本当の勝負かもしれない。
Sources
- https://www.cnbc.com/2026/04/08/meta-debuts-first-major-ai-model-since-14-billion-deal-to-bring-in-alexandr-wang.html
- https://techcrunch.com/2026/04/08/meta-debuts-the-muse-spark-model-in-a-ground-up-overhaul-of-its-ai/
- https://www.axios.com/2026/04/08/meta-muse-alexandr-wang
- https://fortune.com/2026/04/08/meta-unveils-muse-spark-mark-zuckerberg-ai-push/
- https://felloai.com/meta-muse-spark/
- https://www.verdict.co.uk/meta-superintelligence-labs-muse-spark/
